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ABOUT THE WORK
災禍の後を生きている人、寄り添う人、記憶を繋いでいく人。過去の経験を無かったことにしないため、語り、伝える人たちに様々な土地で出会いました。彼らが同時代に生きていて、ひと知れず動き続けている姿に前を向く力をもらいながら、私はカメラで記録させてもらいました。活動だけではなく、部屋に流れている時間、移ろう風景、声のあたたかさも一緒に残るように。自分自身も同じ地域に暮らしながら、あるいはその地域に通って、撮りたい人の生活のそばに居させてもらいました。他者の生き方を見つめるうちに、自分自身が日常の周縁でおろそかにしてきたこと、手遅れでも大切にしたいことへ、自然と意識が向くようになっていきました。直接大きな災禍の影響を受けたわけではないけれど、地方の町で少しずつ失われていくものや、形を変えながら受け継がれていくもの。その気づきの中で、新たに撮影をさせてもらっている人や地域のことを、今回発表の機会をいただいたことをきっかけに、いま現在の記録として編集してみようと思いました。
一つは、新潟県阿賀野市に住む中村美奈子さんの日々を記録しています。昨年発表した《春、阿賀の岸辺にて》の主人公・旗野秀人さんの妹で、阿賀に通っている時からいつも気にかけてくださった恩人です。母の生き方を受け継ぐように、畑で土を耕し、干し柿をつくり、季節や天気に逆らわず、暮らしの中で社会に抗っている(と私は思っています)。
もう一つは、私の父の実家である静岡県川根本町・地名(じな)で始めた記録です。お茶の産地で、私の家では兼業農家として父や母、親戚一同で茶畑を守ってきましたが、昨年工場の閉鎖が決まり、地名の人たちみんなに生産存続の危機が訪れました。なくなると思っていなかった茶畑の風景を残しておきたいという、個人的な動機から始まり、小森家のみなさんにもカメラを向けています。
またこの展示をしている3月は、東日本大震災から15年を迎えます。震災から1年後に移り住んだ陸前高田で、時々、ただ歩きながら風景を撮影していました。見えなくなっても、ここで起きたことは風景のどこかにちゃんと残っている。陸前高田の人たちと風景が、そのことを教えてくれました。誰かが眺めていた地点や、語ってくださった記憶を頼りに、カメラを置いてみる。その経験は他の土地の風景へ、被災した町で、カメラを向ける姿勢を築いてくれました。これまで続けてきた風景の記録も、今回見つめ直してみようと思いました。鑑賞される方の記憶や体験と、この記録との間に、重なり合うものがあれば幸いです。
Works
《新作》2026年/インスタレーション/58分(予定)/カラー、サウンド/日本語(英語字幕付)