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久保田晃弘

久保田晃弘 / KUBOTA Akihiro
1960年生。サウンド・アーティスト。工学博士。多摩美術大学美術学部情報デザイン学科教授。コンピュータを用いた音響映像作品の制作と演奏を通じて、デジタル、アルゴリズム、ネットワーク、即興、インターフェイスなどに関する考察を続ける。編著=『消えゆくコンピュータ』(岩波書店、1999)、『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック──拡散する「音楽」、解体する「人間」』(大村書店、2001)。共著=『200CDテクノ/エレクトロニカ──新世代電子音楽ディスクガイド』(立風書房、2002)。作品=《マテリアルAV──共鳴するインターフェイス》(2003)。現在人間の知覚や身体に依拠しない宇宙人のための芸術(離散芸術論)と細胞を素材としたバイオ彫刻に関するプロジェクトを進行中。
http://homepage2.nifty.com/~bota

Q1. あなたにとってもっとも忘れがたい映像はなんですか?
A. 今日のパーソナル・コンピュータのCPUは、1秒間に20億回以上の演算を行うことができる。演算1回の時間で、光は15cmだけ進むことができる。
今日のパーソナル・コンピュータのメモリーは、10億バイト以上の容量を持ち、24ビットカラーの場合、約4200万個のドットに相当する。
しかしそれは、1920×1080のフルハイビジョン画像わずか20面分にしかすぎない。ハードディスクの容量を考えても、たかだかその1000倍程度である。

Q2.  忘れがたい映像について理由を教えて下さい
A. この時間と空間のアンバランスさに、デジタル映像の構造的な面白さがある。
記憶することより生成すること、保存することより更新すること。
これからの映像を生みだすのは、撮影や描画でもなく、選択や編集でもなく、記録や保存でもなく、ましてや数でもなく、計算である。
コンピュータのみならず、水も、石も、土も、植物も、動物も、この世のありとあらゆるものが計算している。
1秒間に20億回以上の計算の、計算そのもののイメージが創造できたとしたら、それは一体どのような映像になるのだろうか。
だが、人間の視覚は1秒間に20億回の計算の速度を、そのまま見ることはできない。

Q3. あなたにとって「まだ見ぬ」映像とはなんですか?
A. 世界は常に人間の知覚や身体や記憶を越えて存在してきた。
「もっとも忘れがたい映像」ではなく「憶えることすらできない映像」を想像すること。
「未だ見ぬ映像」ではなく「決して見ることのできない映像」を想像すること。
たとえ人間が見ることができなくとも、計算によって映像は生成され続ける。
宇宙に光学的に観測できないダークマターが、視覚的に観測できる物質よりも、はるかに多く存在するように。

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