COMMISSION PROJECT

コミッション・プロジェクト 無料

葉山嶺

2023年2月3日 - 2023年3月26日 10:00-20:00 (2月19日以降は18:00まで、木・金のみ20:00まで) ※月曜休館

東京都写真美術館 3F 展示室

恵比寿映像祭2023委嘱制作作品
Hollow-Hare-Wallaby

葉山嶺

《Hollow-Hare-Wallaby》2023年、シングルチャンネル・ヴィデオ(ProRes422 (HQ)、1920 x 1080、30p)、ステレオ、16分37秒(ループ) © 2022 Rei Hayama © 2022 Rei Hayama

STATEMENT

ABOUT THE WORK

《Hollow-Hare-Wallaby》は、ウサギワラビー(Eastern hare-wallaby)という動物の剥製です。しかしこれは実際の剥製ではなく、コンピュータグラフィックス(CG)の剥製です。奇妙な言い方ですが、これは仮想空間に取り残された「絶滅の複製品」なのです。Hollow-Hare-Wallabyというタイトルには、空洞の、虚ろな、そらぞらしいウサギワラビーといった意味があります。

ウサギワラビーは、かつてオーストラリア大陸に生息した有袋類の動物です。オーストラリアへ渡ったヨーロッパ人により持ち込まれた穴ウサギやアカギツネ等による生息環境の変化が原因で19世紀末に絶滅したと推測されています。オーストラリアの野生動物を体系的に記述した最初の人物として知られる英国人鳥類学者ジョン・グールドが、ウサギワラビーという種を特定してからおよそ50年後にこの種は絶滅したと考えられており、生態について記録はほとんど残されていません。現在、残されているのは剥製や標本、版画や絵のみです。それらを見ると、まるで今でもオーストラリアの自然保護区に行けばウサギワラビーの姿を見ることができるのでは、と錯覚させられるくらい、どこか親しみ深い姿をしています(話が少し脇にそれますが、現存する版画の中にはグールドの妻で画家のエリザベス・コクセン(1804–1841)の作品が含まれていることを付け加えておきます。実際にグールドの出版物のリトグラフの多くはエリザベスの手によるものでしたが、当時の女性の多くが経験したことと同様に、作品の署名に彼女の名前が載ることはありませんでした)。

地球上で6度目の大量絶滅の時代の真っただ中を生きている私にとって、「種の絶滅」とは心を引き裂かれるような事実であると同時に、宇宙の暗闇に吸い込まれるような気持ちになる途方もない出来事でもあります。それは、この事態に「絶滅」という名を付けた人類がいつの日か絶滅するという可能性が、地球の生命の歴史を考えれば決して起こらぬ事ではないと思えるからでしょう。一方、人間が奇跡を起こせるのかもしれないと希望を持つこともできます。例えば人間が人間以外の生き物たちのことを必死に想像することは、ひとつの力かもしれません。

既に述べたように、絶滅したウサギワラビーの本当の姿を私たちはもはや知ることができません。《Hollow-Hare-Wallaby》はトリノの自然博物館の協力のもと、ウサギワラビーの剥製の実寸に基づき作成されました。それでも、ドラクロワが描いた虎が何となく生きている虎よりも敷物の虎に見えたり、仏教美術の中の象が本物の象とはかけ離れた神話上の生き物のような姿になったりしているのと同じように、《Hollow-Hare-Wallaby》は人間の一方的な想像力から生まれたものに違いありません。そして、そう意識するとき、人間は人間以外の生物にとっての世界を想像し、それらに敬意を払い、人類は何を残せるのかと問うはずです。

[Credits]
Concept, Direction, Edit, CG, Sound: HAYAMA Rei
Instruments sound: Lars RUDOLPH
Zoological Information: Luca GHIRALDI, Museo Regionale di Scienze Naturali di Torino, Italy
Sound Mastering: YAMAZAKI Iwao
Equipment and Studio: MAKINO Takashi
Technical Assistance: TANAKA Daichi
Special Thanks: Lawrence ENGLISH, Room40, Stephen CHENG, Alexander LAU

 

Artist

PAST WORKS

《Dormant Soil / Concrete Reflections》2020年、ヴィデオ&サウンド・インスタレーション(2チャンネル・ヴィデオ、5.1 チャンネル・サウンド)、Zai Tang(シンガポール/イギリス)との共同制作作品、釜山現代美術館、2020年(釜山ビエンナーレ2020のためのコミッションワーク)

《On the collinear and reflected on the water》2018年、シングルチャンネル・ヴィデオ、ステレオ、3分50秒(ループ)

《The pearl of tailorbird》2018年、インスタレーション、13チャンネル・HDヴィデオ、14チャンネルサウンド、プリントされた詩、寸法・時間は可変、Empty Gallery、香港、2018

《In search of colour》2017年、シングルチャンネル・ヴィデオ、ステレオ、42分24秒、制作協力:BANSKA ST A NICA(バンスカー・シュティアフニツァ、スロバキア)

《Inaudible footsteps》2015年、シングルチャンネル・ヴィデオ、ステレオ、4分36秒

《Reportage !》2015年、シングルチャンネル・ヴィデオ(16ミリフィルムによる撮影)、サイレント、52秒

《Some smallness coming from land》2015年、シングルチャンネル・ヴィデオ、ステレオ、25分15秒

《The Focus》2013年、シングルチャンネル・ヴィデオ(16ミリフィルムによる撮影)、ステレオ、26分29秒

《Emblem》2012年、シングルチャンネル・ヴィデオ(16ミリフィルムによる撮影)、ステレオ、15分23秒

《Their bird》2010-2012年、シングルチャンネル・ヴィデオ(8ミリフィルムによる撮影)、ステレオ、13分8秒

《Cinema of stuffing》2010年、シングルチャンネル・ヴィデオ(16ミリフィルムによる撮影)、ステレオ、10分51秒

Related Program