第5夜 the Voice-over 〜 内なる映像映像をめぐる7夜

1作品《the Voice-over》は、1988年に他界したある人物が遺した声を素材としている。無数のカセットテープ、ビデオテープ群に記録されていたその声は、かつてブラウン管の中から毎日鼓膜に語りかけられた公的な声であると同時に、私と遺伝子情報を共有する声帯による──端的に言えば私の肉親の──極めて私的な声でもある。彼の死から10年経ったある日、偶然実家の納戸でその声の記録を発見したのをきっかけに、私はそれをもとに一編の作品を作った。そして彼の死から20年経った今、ここにもう一度その声を「再生」する。

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メインスクリーンが配置され、テレビというメディアを主題に扱い、イメージの喚起を指向するという点で、この作品は明確に「映像」作品である。しかし視覚的要素が極めて少なく、立体音響システムが再生する音声によって風景が描き出されていくという点では、「サウンド・インスタレーション」とも言えるだろう。ナラティヴに語られる構成は「ラジオドラマ」のようでもあるが、その物語はフィクションではないから、音声の「ドキュメンタリー」と言った方が良いかもしれない。淡々と記憶が流れていく様は「写真集」的だが、私自身の一部を晒しているという意味で「パフォーマンス」的でもある…この作品がどこに分類されるべきなのか分からない。しかし声に取り憑かれた“歌手”としての私の原点がこの作品にあることは確かなのだ。だから少々乱暴に、この作品はある人物についての、一曲の「歌」なのだと言ってしまいたい。(山川)
*作品についてのさらなる詳細は『未來』(未來社刊、2000年2月号)に掲載されている「声に潜勢するもの3 消えた顔、遺された声」を参照されたい。[*パンフレットより]

山川冬樹

山川冬樹/1973年生まれ。
ホーメイ歌手、アーティスト。電子聴診器をはじめとする医療機器を創作にとりいれ、自らの心音を重低音で増幅、さらに鼓動の速度や強さを自ら制御しながら、そのリズムを、光(裸電球)の明滅として視覚化するパフォーマンスなど、テクノロジーによる身体の拡張をコンセプトにした作品で知られる。