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柳澤田実

柳澤田実 / YANAGISAWA Tami
1973年生。哲学、キリスト教思想専攻。南山大学人文学部専任講師。宗教的経験や美的体験など、従来人間の「精神活動」として捉えられてきた事柄を、行為と環境との相関関係において捉えなおすための方法論を探究。編著書=『ディスポジション──配置としての世界』(現代企画室、2008)。論文=「神を欲望すること──ニュッサのグレゴリオスにおけるパトス概念の可能性」「自己展開するイメージ──偽ディオニシオスに見る主体化の問題」など。

Q1. あなたにとってもっとも忘れがたい映像はなんですか?
A. 放射性廃棄物を冷却するプールは、黄色い光に照らされ、鮮やかな緑青色に発光していた。原子力発電所の従業員である一人の中年男性が、ガラスのコップでプールの冷却水を汲み上げ、カメラの正面に立ち、飲み干す。

Q2.  忘れがたい映像について理由を教えて下さい
A. 学生時代に偶然にテレビで見たドキュメンタリー・フィルム(NHKで放映されていた)のラスト・シーンである。旧ソ連時代からの原子力発電所の粗悪な実態を告発する内容だったと記憶している。プールに満ちた異様な光彩、そしてあまりにも日常的なガラスのコップと廃棄物から発散されたであろう(それ自体は不可視の)膨大なエネルギーとのコントラスト。カメラが捉えたこのスケールの飛躍・ささやかなものと驚異的な(暴)力の隣接は、私たちの世界のリアリティーにほかならない。

Q3. あなたにとって「まだ見ぬ」映像とはなんですか?
A. 自然物とアーティフィシャルなもの、動植物や鉱物、そしてケミカルなものが混淆する宮沢賢治のハイブリッドな宇宙において、主人公は、光を介して異なるオーダー・異なるスケールへと飛び移る。「そしてジョバンニはすぐうしろの天気輪の柱がいつかぼんやりした三角標の形になって、しばらくほたるのように、ぺかぺか消えたりともったりしているのを見ました。それはだんだんはっきりしてきて、とうとうりんと動かないようになり、濃い鋼青のそらに立ちました。いま新しく灼いたばかりの青い鋼の板のような、そらの野原に、まっすぐすきっと立ったのです。」(『銀河鉄道の夜』)こうした光の飛躍は、果たして何らかの像を結びうるのだろうか。

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