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第1回テーマ

第1回 総合テーマ  オルタナティヴ・ヴィジョンズ

現代の都市生活には、さまざまな発信、受信方法をとって「映像」が入り込んでいます。テレビに象徴されるマス・メディアが大量消費を牽引してきた一時代を経て、ネットワーク型のメディアが生活の隅々にまで入り込み、知らず知らずのうちに人々の知覚や行動に作用しています。私たちの視野は、メディアの力をかりて無限に拡張していますが、同時に視覚体験の豊かさが増したとは必ずしも言えません。

すべてが簡便なサーヴィスとして提供され得る時代、それに飽き足らない人々が求めるのは、与えられたものとは違うオルタナティヴな価値です。この時代の文化支援に必要な実践の形は、マスにむけて同じサーヴィスを普及することでも、ジャンルの壁をいたずらに取り払うことでもなく、個々人がそれぞれに求めるオルタナティヴな価値が、ともに育ち交歓する場を醸成することにあるのではないでしょうか。

ひとつではない問いと答えを探していく手がかりは、目の前ばかりにあるとは限りません。過去をひもとき、あり得たはずの未来を思い描くことや、共有できるはずのない他者の視点から見える世界を許容すること。人間性の光と闇を見据えつつ、時に没頭し、時にずらし、戯れながら、見えるものと同時に見えないものの奥行きを識ること。目に映るそれぞれを芸術/アートと呼ぶかどうかはさておいて、さまざまな選択肢を試し、視えているものを疑いながら、それぞれにオルタナティヴな映像を探し求めていくこと。それが恵比寿映像祭の基本姿勢であり、立ち上げとなる第1回の総合テーマです。

恵比寿映像祭ディレクター
東京都写真美術館学芸員
岡村恵子

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