科学映画の愉しみ
映画の世界には、産業としての中核をなすフィクション映画の陰にノンフィクション映画というジャンルがあり、さらにその支流として、ささやかだが伝統のある科学映画という分野が存在する。マイブリッジの連続写真の例を出すまでもなく、映画はその原初期から科学と強い結びつきを持っており、また、時代ごとの研究の進展に応じて科学映画は新しい知見を画面に収めていった。だが、現代の人間にとって過去の科学映画はどのような意味を持つのだろうか? 時代が変わると、もはや価値の見出せない無用の長物になるのだろうか? このプログラムはそのような実用主義の行き過ぎに抵抗する。時代の“眼”は、しばしば時代の“美”を捉えているものである。ここに選ばれた4作品は、高校の理科でいえば「物理・化学・生物」の3分野を扱ったことになり、また国籍としても3か国にまたがることになる。だが、いずれも自然や人工物がその意図を超えて私たちの前に提示してしまう“美”という問題に無自覚ではいられなかった人間の仕事である。もとより科学は撮られるために存在するのではない。にもかかわらず、これまで脈々とキャメラの介在を要求してきたのは、人間以上に科学の側ではなかったか。そう考えさせてくれるほど、優れた科学映画は現代の人間にも愉しみを与えてくれている。
プログラマー
岡田秀則(映画研究者、東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員)
ジャンル
上映
場所
1F
作家・プログラマープロフィール
プログラマー/岡田秀則(映画研究者、東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員)
1968年生まれ。東京国立近代美術館フィルムセンターで、これまで映画フィルムや関連資料の収集・保存や、上映・展示企画の運営、映画教育事業などに携わる。日本のドキュメンタリー映画史、物質としての映画史を専門と称するが、むしろ映画の“雑食性”を好み、映画史を踏まえたさまざまな執筆活動や上映活動に関わる。共著に『映画と「大東亜共栄圏」』(2004年、森話社)、『ドキュメンタリー映画は語る』(2006年、未來社)など。
作家/マルティン・リクリ(1889-1969)
スイスのチューリヒに生まれる。ウーファ文化映画部を代表する演出家のひとりで、1929年以来北アフリカや東アジアを探検して紀行映画や戦争記録映画を残したほか、軍事映画や科学映画を多数手がけた。科学映画の分野では他に《低温》(1937年)などがある。
作家/ジャン・パンルヴェ(1902-1989)
フランスを代表する科学映画作家。学生時代には生物学を志すと同時に前衛アーティストたちと交流、1927年に初作品『トゲウオの卵』を発表する。その主なテーマは海の生物であり、真摯な探究心とユーモアをベースに生涯で200本以上の作品を送り出した。代表作に『タツノオトシゴ』(1934)、『吸血コウモリ』(1945)、『ウニ』(1952)がある。父のポールは数学者・政治家で、フランスの首相にもなった。
作家/竹内信次
記録映画監督。企業PR映画を中心に、『北方の霧』(1948)、『太陽と電波』(1957)、『ガソリン』(1962)、『生活と寸法 モデュラー・コーディネーション』(1962)、『世界の魚網』(1964)などの作品がある。
作家/樋口源一郎(1906-2006)
若い頃は画家を目指すが、寺田寅彦の影響で科学と芸術の結びつきに関心を抱いて映画界に入る。2001年の《きのこの世界》に至るまで、90歳代後半まで60年以上にわたり現役の映画作家として活動した。とりわけ微生物を生涯のテーマとし、未知の領域に微速度撮影で迫る「映像論文」は世界的な評価を得ている。
写真提供:石井董久
上映日時
2009年02月21日(土) 13:30~
2009年02月25日(水) 19:00~
上映情報
*プログラム協力:清水浩之氏/山形国際ドキュメンタリー映画祭