上映

「映画」と「絵画」の境界線上で

「絵画は静止画なのだろうか。そして映画の画面は(いつも)動いているのだろうか。 記憶は現在の感覚が作り上げるものだ。記憶のイメージは、絵筆を握った画家の身体によってたえまなく編集され続け、キャンバスに移される。鑑賞者もまた、その場の音響も含め、瞬きと意識/無意識による編集を行い、画との間にイメージを組み立てる。時代によって、編集の形、記憶は異なり、我々は描かれた時代の鑑賞者とは異なった絵を見ているのだ。 映画史の最初に位置する「列車の到着」は、30秒ほどの時間の始まりと終わりでは、まったく異なった絵がそこにある。1895年の観客は驚いて眼を見開き、2枚の絵とその間の変化を身体で受け止めた。日常的なものがレンズによって見知らぬものとして現われる。多数の観客がそれを受け止める体験の始まり、観客が瞬きと意識による編集によって個別の映画を作り上げる歴史の始まりとなったのだ。   そして百年。スクリーンには、ときに、巨大な軍勢の「図」をデータとして増幅させた、ただ凡庸な画面も現われる。これはむしろ「停止」した画面だろう。   8ミリや35ミリのフィルム画面から、携帯電話のデジタルディスプレーまで、動きを豊かにはらむスリリングな「静止」を含むあらゆる絵について、「動く」ということはどういうことなのか、「描かれる時間」とは何かを考えたいと思ってこのプログラムを組みました。

プログラマー

大久保賢一(映画評論家)

ジャンル

上映

場所

1F

作品図版/画像
原将人《あなたにゐてほしい》
2008 年/ヴィデオ(HD)、カラー、サウンド/未公開作品より一部抜粋(約5分)/日本
作品図版/画像
T. マリー《オプトラ・フィールド V》
2007-2008年/ ヴィデオ(HDCAM)、白黒、サイレント/4分/アメリカ
作品図版/画像
クリス・チョン・チャン・フイ《ブロックB》
2008年/35ミリ、カラー、サウンド/20分/マレーシア, カナダ
作品図版/画像
ヴァネッサ・オニール『オーガスト』
200x年/16ミリ、カラー、サイレント/4分30秒/アメリカ
作品図版/画像
ジェス・マクニール『あいだのかたち』
2006/HDDVD、カラー、サウンド/12分59秒/インド
作品図版/画像
小瀬村真美《Under Water》
2007年/HDDVD、カラー、サウンド/14分35秒/日本

作家・プログラマープロフィール
大久保賢一(映画評論家)

プログラマー/大久保賢一(映画評論家)
1950年生まれ。大学在学中から映画の上映・制作活動を始める。海外映画祭でコンペティション審査員や国際批評家連盟賞の審査員をつとめ、ロッテルダム、ウィーンなどの映画祭の日本映画プログラミングに協力。著書に「荒野より」「映画:二極化する世界映画」ほか。コミュニティシネマ支援センター運営委員会メンバー。多摩美術大学、東京造形大学非常勤講師。

ジェス・マクニール

作家/ジェス・マクニール
1977年、ノヴァスコシャ(カナダ)に生まれる。1995‐2004年、シドニー大学および同大学院にて視覚芸術を専攻。現在は、ロンドン(イギリス)に滞在中。写真をもとにした絵画制作を重ねていたマクニールは、一瞬を即座に切り取る写真に対し、絵画には、描画のプロセスや鑑賞体験にともなう時間性がはらまれていることに注目した。絵画の時間性を問うなかで、マクニールは、制作手段にヴィデオを採用するようになる。《オペラハウスの階段(Opera House Steps)》2006年は、シドニー・オペラハウスの階段を行き交う人々の影をとらえたもの。一見抽象的に見える画面だが、眺めるうちに、隠されているものが脳のなかで像を結びはじめる。可視と不可視、意識と無意識、公共空間と私的空間、実体とその影との間でせめぎあう感覚を、絵画制作と並行して映像を用いることで表現している気鋭のアーティスト。

原将人

作家/原将人
1950年東京生まれ。京都在住。高校生のときに16mm映画を作り始め、1973年に「初国知所之天皇」を発表。天地創造の神話と映画という小宇宙とを照応させ、現代映画史に屹立するこの作品は、8mmと16mmのフィルムを交互に映写する版から、ロッテルダム国際映画祭で上映された二画面の版まで変転を続けている。原はフィルムからヴィデオまでの多くの作品を監督するだけでなく、絵画からデジタルまでのアートの存在形態を突き詰める研究者でもある。

T. マリー

作家/T. マリー
様々なヴィジュアル・メディアを横断して制作するが、とりわけ 「時間軸を持つピクセル絵画」あるいは「時間軸を持つドローイング」の作家として知られる。作品はトロント、ロッテルダムなどの国際映画祭や各地の美術館で上映されている。2007年にはハドソン・ヴァレー・センター・フォー・コンテンポラリー・アーツによって「米国のベスト・ニュー・アーティスト」の一人に選ばれた。現在、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインで教えている。

ヴァネッサ・オニール

作家/ヴァネッサ・オニール
ニューヨーク、ブルックリン生まれ。サンフランシスコ在住。ボストン美術館付属学校School of the Museum of Fine Arts、またタフトTufts大学を経て、サンフランシスコ・アート・インスティテュートに学ぶ。フィルム、絵画、写真の作品を制作。現在、サンフランシスコ・シネマテークのプログラム・ディレクターもつとめる。

クリス・チョン・チャン・フイ

作家/クリス・チョン・チャン・フイ
東マレーシア生まれ。教育機関で映画を学ぶことなしに2000年の《MINUS》以来、継続して短篇実験映画をカナダで制作。その後、インドネシアで撮影された2本の作品を経て《ブロック B》が9作目。これまでの作品も各国の映画祭で上映されてきたが、《ブロック B》はロッテルダム、ベルリン、トロント等の映画祭で上映され、アルゼンチンのマルデルプラタ映画祭最優秀短篇賞、トロントの最優秀カナダ作品賞(合作を含む)などを授賞している。

小瀬村真美

作家/小瀬村真美
1975年神奈川県生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。現在は東京を拠点に制作活動を行う。主な展覧会に「セゾンアートプログラム アートイング東京2001」(旧新宿区立牛込原町小学校)「MOTアニュアル2004」(東京都現代美術館)「日本×画展」(横浜美術館)「奇器借景」(Yuka Sasahara Gallery)などがある。この他国内外の映画祭の上映にも数多く参加。

上映日時

2009年02月28日(土) 19:00~

上映情報

ゲスト・トーク:2009年2月28日(土)19:00~ 小瀬村真美、ジェス・マクニール、大久保賢一ほか

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